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2011年11月21日 (月)

サービスのプロ

ワイン好きの方であれば、田崎眞也さんをご存知の方が多いと思います。95年にアジア人としてはじめて世界最優秀ソムリエになった方です。田崎さんはシェフソムリエとも呼ばれ、料理の腕も一流で、TV番組「料理の鉄人」で鉄人に勝ったこともあります。現在、国際ソムリエ協会の会長として、ワインの普及とソムリエの質的向上に尽力されています。

その田崎さんがよく口にされる言葉に、「ソムリエはワインの専門家である前に、サービスのプロでなければならない。」というものがあります。ソムリエとは、レストランで食事をするお客様が、料理に合わせてワインを楽しむのをサポートする接客業であるという意味でしょう。

田崎さんが危惧されるのは、ソムリエがワインの専門家気取りで、ワインに疎いお客様に対して薀蓄を傾け、まるでお客様をばかにするかのように、「そんなことも知らないんですか?」といわんばかりの対応をすることです。確かにワインは奥の深い飲み物であり、産地や歴史、料理との相性など、本格的に楽しむためには多くの知識が求められます。しかし、こういった知識のない一般のお客様をサポートするのがソムリエの仕事であるはずです。むしろ、そんなお客様がいるからこそ、自分たちが「飯が食える」のであり、感謝しなければならないはずです。

私はソムリエがいるようなレストランにはめったに行きませんが、世の中には自分に与えられた使命が理解できず、独りよがりの仕事をしているソムリエが結構な数いるようです。フランス料理店のオーナーシェフの中には、「ソムリエを置かないほうがサービスの質が向上する。」と言い切る方もいると聞きます。ソムリエの普及に尽力される田崎さんとしては、なんとも歯がゆい話だと思います。

似たような話がコンピュータの世界にもありました。私は20代のころ、ソフトウェアハウスでSEの仕事をしていました。そのころ、「SEと話をするのは不愉快だ。」とおっしゃるお客様に多く出会いました。「SEと話をすると、ばかにされているような気がする。」というのです。「そんなことも知らないのですか?」と言わんばかりの対応が目立っていた気がします。パソコンが普及し始めたころにも、同じような話が多発しました。ご記憶にあるのではないかと思います。

ワインとは性質が異なりますが、コンピュータも複雑な機器ですし、ソフトも多様です。使いこなすにはかなりの専門知識が必要になります。そして、それをサポートするのがSEです。にもかかわらず、コンピュータの専門家を気取って、知識のないお客様を見下し、ばかにするような仕事ぶりのSEが多かったのも事実です。ソムリエと同じ現象がSEの世界にも見られます。

SE出身ということもあり、10数年前までは私もSE教育に携わってきました。若手のSEを指導する際には、先輩SEからの助言として、「SEとはSystem Engineerの略だと思うな。接客(Sekkyaku)の専門家(Expert)の略だと思え。」と伝え続けてきました。「SEとは接客業である。」ということを後輩たちに理解して欲しかったのです。とくにビジネスシステムを扱うシステムアナリストやアプリケーションエンジニアと呼ばれる職種では、業務支援システムをお客様と二人三脚で構築していく仕事を請け負う以上、接客の意識(おもてなしの精神)がなければ仕事にならないと思うのです。

翻って、セミナー講師はどうでしょうか。

さすがに、「そんなことも知らないの?」はないだろうと思いたいのですが、残念ながらそうでもないのです。もちろん自分が今からしゃべろうという知識を受講者があらかじめ持っているとは考えないでしょうが、それを理解するための前提知識については、「そんなことも・・・」はあるようです。自分の説明が下手で受講者が理解できないということを認めたくなくて、説明し忘れた部分について「当然知っているものだと思っていました。」と言い訳をするのです。要は説明が下手なのです。そして犠牲になるのは受講者です。

物事を説明する際には一定の順序というものがあります。前提となる基礎知識を理解してもらい、一定の前提条件をおきながら応用的な知識を説明する、という具合です。ところが、準備不足の講師や教え方の下手な講師は、いきなり自分がしゃべりたいことから話し始めてしまいます。もちろん、受講者の知識レベルからみて、あまりにも初歩的な説明から入るのはかえって失礼でしょうし、時間のムダになります。しかし、そういう場合には、「○○については、既にご理解いただいていると考えてよいでしょうか?」という程度の軽い確認を入れながら講義を進めるべきです。

ただし、こんな講師は単にスキルが低いだけですので、経験をつめば直っていきますし、そうでなければいずれ淘汰されるでしょう。始末が悪いのは、受講者が理解できないとわかっていて、とうとうと難解な知識をしゃべり続ける講師です。本人は「自分はこんなに難しいことを知っているのだ。」と自慢したいのでしょうが、それは己の立場をはき違えているとしか言いようがありません。こんな講師につき合わされる受講者こそいい迷惑です。さらに困ったことに、この手の講師は難しいことをしゃべれるだけに、「上級編」などの講座を担当しつつ、生き残っていく可能性が高いのです。ただし、上級講座は相対的に開講数が少ないため、しょっちゅう初級編や中級編にも降りてきて、受講者を困惑させる困った存在になります。

先週の木曜日、今年のボージョレー・ヌーボーが解禁になりました。近所の酒屋のワインアドバイザーの話では、「今年は重くもなく、軽すぎることもなく、とっても飲みやすいですよ。」とのことでした。ヌーボー(新酒)をのみながら、初心(新酒時代)にかえって、己の講義を反省してみたいと思います。

でも、「わかりやすくて、質問も出ない。」では、講師としてもさびしいでしょうね。

とりこし苦労な一言を添えて、蛇足とします。

すみぶち塾Sumizuku

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