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2011年10月31日 (月)

日ごろ使わない筋肉

むかしむかしの学生時代、私はボート部に所属しており、日々、それはそれは過酷なトレーニングを行っていました。実際に川にボートを浮かべて何十キロもこぎ続けるだけでなく、陸トレといってバーベルを持ち上げる筋トレもたっぷりやっていました。おかげで、あちこちに筋肉がつき、体全体がごつごつの不格好な姿になってしまいました。それと同時に、これだけ鍛えているのだから、どんな肉体労働も平気だぜ、と思っていました。

ところが、某引越し会社のアルバイトをした翌日、体のあちこちの筋肉が痛くて歩くのもままならなかったことがあります。「なんで?」と思いました。引越しよりきつい筋トレをやってたはずなのに・・・。

後になって、引っ越し作業ではボートを漕ぐときには使わない筋肉を酷使ししており、それが筋肉痛を起こしたんだということに気づきました。よくいう「いつも使わない筋肉を使う」ということですね。スポーツのトレーニングというのは、競技に必要な限られた筋肉を最小限の努力で鍛えられるように組み立てられており、必ずしも日常生活で必要な筋肉のすべてを網羅しているわけではないのだと教えられました。そういえば、瀬戸内で漁師をやっていた叔父は、子供のころから過酷な船上作業で鍛えられており、その後、どんな仕事をしても筋肉痛などを訴えた様子は見たことがありません。やはり実務で鍛えられた体は強いんですね。

この話は筋肉だけに限らないと思います。

講師業をやっていると、自分の専門領域の知識はやたらとたくさん、かつ深く身に付きますが、その知識だけでビジネスの実務ができるかというとそうはいかないのです。たとえば、人事制度を構築したり、評価者研修の指導を行っていると、「人事制度はどうあるべきか」とか「評価のスキルの重要ポイント」などはかなり高度なレベルで語れるようになります。しかし、「それなら当社にきて、人事課長に就任してください」といわれて務まるかといえば、まず無理でしょう。人事課長は人事制度の運用だけを行っているわけではないからです。

人事課長の仕事には、給与計算(税務、社会保険事務を含む)や労働衛生管理(健康診断や産業医とのやり取りを含む)、採用や退職の事務手続き、そして社内で日々発生する様々な人事トラブルや苦情処理など、人事管理のテキストには出てこない膨大な仕事が待っています。講師の持つ知識だけでは到底処理しきれません。

だから、講師は身の程を知らなければならないと思います。自分は特定の知識領域のスペシャリストではあっても、受講者(実務を支えている人たち)にとって代われるものではないということをしっかりと肝に銘じておく必要があります。そう思って、謙虚な気持ちで教壇に立つ必要があるのです。

と同時に、これらの実務知識についても、可能な限り情報収集を行い、少なくとも知識レベルでは理解しておく努力は必要です。普段は使わない筋肉を鍛えておく、ということです。

実務の中で「内部統制制度の整備を進める」といった場合、根拠法令や内部統制の技術的な知識が必要なことはもちろんですが、それだけでは足りません。マネジメントの現場で交わされるやり取りの特性や、よくある失敗例やそれに対する関係者の反応などを理解しておくことで、活きた内部統制制度の構築指導ができます。理屈を延々と語るのではなく、「○○の現場では、よくこんなことが起きますよね。」といった話ができれば、受講者は学習中の知識と自分の仕事を結び付けやすくなり、より深く確実な学習が期待できます。

にもかかわらず、内部統制を語る講師・コンサルタントの中には、実務を知らないばかりか、講師に求められる周辺知識であるはずの法令やITの知識すらない人も結構いたりします。こんな講師に習ったのでは、内部統制「論」の勉強にはなっても、業務改革の実現は難しいでしょう。

なぜこんな残念なことになるのかといえば、専門家であることに安住してしまっている講師が多いのではないかと思います。「私は○○の専門家ですから」といえば、他のことは全く知らなくても許されると思っているのではないでしょうか。これは大いなる勘違いですね。

我々実務教育の講師は大学の先生とは違います。お客様が我々を招いて講義を聞くのは、学問をしたいからではなく、特定の経営課題に答を出したいからです。だとすれば、その課題に取り組むために必要な知識などは、可能な限りオールインワンで提供すべきものでしょう。それがビジネスというものです。その発想がないから、「○○の専門家」という枠から出られないのだと思います。これは一種の不勉強なのだと思います。

周辺知識を身につけることは、仕事の深みだけでなく幅を広げることにもつながります。「周辺」の範囲にとどまらず、雑食を心掛ければさらによいでしょう。マネジメントの話をしながら法律や財務・計数の話を同時にできれば、内容が立体的になり、他では聞けない講義を実現できます。すでに述べたように、世の中には「○○の専門家」の枠から出ることができない講師が大勢いるわけですから、差別化戦略としてもきわめて有効です。しかも、講師の専門分野にもはやりすたりが存在します。自分の専門分野の1つがすたれても、他の分野で稼げるように専門性のポートフォリオ管理ができるようにもなります。

「芸は身を助く」という言葉は良い意味ではなく、趣味で磨いた芸で生活しなければならないような追い込まれた境遇をはかなんだ言葉だそうですが、いいじゃないですか。たくさんの芸を持てば、人生の選択肢も広がりますから。

ただし、器用貧乏にだけはならないように。くれぐれも。

すみぶち塾Sumizuku

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