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2011年9月12日 (月)

いつか使う教材

みなさん、ウィスキーはお好きですか。

私はといえば、「アルコールが入っておれば、とりあえずなんでも可」というくちですので、好きでも嫌いでもない、といったところです。昔、神戸の老舗バー、トムキャンティに出入りしていたころ、マスターの榊さんからウィスキーのうんちくをずいぶん習いました。スーパーにも売っている安酒から、とんでもない高級酒まで、一口にウィスキーといってもいろいろですね。味わいも、スコッチとバーボンではまったく異なるし、カナディアンはカナディアン独自の味わいがあります。最近では、ジャパニーズウィスキーが世界的に評価を高めているとか。

日本を代表するウィスキーブレンダーの輿水精一さん(サントリー)は、著書「ウイスキーは日本の酒である(新潮新書)」で、ジャパニーズウィスキーが世界に認められていく様子を紹介されています。

その中で、日本のウィスキーメーカーとスコットランドのそれとの大きな違いに触れておられます。スコットランドでは、狭いエリアに百を超える蔵元があり、それぞれが個性的な原酒を仕込んでいます。彼らは蔵元同士で原酒を融通しあい、独自の味わいのブレンドで酒を出荷しています。ところが、ウィスキーの歴史の浅い日本では、数少ない大手メーカーだけが生産しているため、スコットランドのような融通がききません。いきおい、1社で多彩な原酒を仕込まざるを得なくなり、おびただしい種類の原酒を保有することになるそうです。サントリーなど、モルトだけでなく、ブレンドのわき役グレーンウィスキーですら、味わいの異なる3種類(クリーン、ミディアム、へヴィー)を仕込んでいるとか。

ブレンダーとは、複数の原酒をブレンドして、特定のブランドを作りだす仕事です。有名な「響12年」などでは、20種を超える原酒がブレンドされているそうです。ですから、自社で保有する原酒の個性をすべて暗記し、その個性の活かし方を研究し、しかも工業製品ですので、安定した生産を可能にするために、各樽の残量がどの程度かということも熟知していなければならないそうです。

加えて、新製品を生み出すためのブレンドだけでなく、既存ブランドの維持・刷新のためのブレンドに割かれるエネルギーも膨大です。2006年に看板商品のオールドが思い切ったリニューアルを行った際、新生オールドの生産に膨大な原酒が回されたため、他の商品の生産に充てる予定であった原酒の多くが消費されました。そうなると、影響を受けた商品の維持のために、残った原酒をやりくりして新たなレシピを開発する必要が出てきます。まさに、在庫を熟知している輿水さんだからできるすご業なのだと思います。

ところで、12年物のウィスキーを生産するための原酒は少なくとも12年前に仕込まれます。つまり、12年以上先のマーケットの嗜好を予測しながら、どんな個性の原酒をどの程度の量仕込むかを工場にリクエストするわけです。素人目にはとんでもない大ばくちに映ります。しかも、リクエストの中には、どんな目的で使用するか現段階では未定のタイプの原酒も1~2割含むそうです。使わなかったら捨てるんでしょうか?(それとも自分たちで飲んでしまうんでしょうか?)

経営的には大きなリスクを伴うわけですが、1社であらゆる原酒を用意しなければならないジャパニーズウィスキーメーカーの宿命なのでしょう。また、それだけに臨機応変にブレンダーの意図をくんだ商品作りが可能となり、ジャパニーズウィスキー独自の個性実現に貢献しているのだと思います。

この話を聞いて、「研修教材作りに通じるものもあるかな?」と思いました。フリーのセミナー講師の場合は、教材はすべて自分の手で作成します。そのため、「いつ使うかわからないような教材」を作ることは、普通しません。しかし、一定の規模を持つ会社組織でやっている場合には、専属の開発スタッフを用意できることもあります。業務の閑散期に彼らの工数に余力ができたときなどに、この「いつ使うかわからないような教材」を作らせることがあります。

たとえば、財務分析の研修用に、既存教材として入門編、実践編の2種類を保有しているとします。通常はこの2種類で十分かもしれませんが、「辞書的に使用できるハンドブックタイプの教材があれば助かる場面もあるのでは?」という意図でそれ用の企画を練り、教材として仕込むことが考えられます。後になって、このような教材が事前学習を前提としたケーススタディ中心の財務研修で、補助教材として重宝することがあります。ちなみに私は、財務分析の教材だけでも、タイプの異なる4~5種類の教材を使い分けています。

他の分野でも同様で、「業務分析技法を整理した資料があると便利かな?」と思って作った資料があります。これが今では、業務改善研修だけでなく、リスクマネジメント研修や中堅社員研修などで重宝な教材となっています。

このように、異なるタイプの教材を組織的にそろえておき、複数の講師がそれぞれのアレンジで使いまわすことができれば、講座のバリエーションは一気に広がりますし、お客様からは柔軟なカスタマイズに応じてもらえるフレキシビリティの高い講師という評価を得られることにもなります。

講師の仕事にも、「あそび」「のりしろ」ってやつが必要なんですよね。

すみぶち塾Sumizuku

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