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2011年1月

2011年1月 7日 (金)

基礎教育の指導者

幕末の長崎に、ポンペ・ファン・メールデルフォールトという青年がやってきました。ウィキペディアによると正式な名前は、ヨハネス・レイディウス・カタリヌス・ポンペ・ファン・メールデルフォールトというそうで、オランダ海軍の軍医です。彼は長崎で幕府の医学学校の教官を務め、それまで個々の治療技術の集合体にすぎなかった「蘭方」を、科学的かつ体系的な医学に昇華させた功労者です。物理・化学から説き始め、解剖学や病理学、内科学や外科学、そして薬学まで、たった一人で教官を務めて多くの学生を育て、近代日本の医学振興に多大の功績を残しました。この経緯にご興味のある方は、司馬遼太郎の「胡蝶の夢」という小説をご一読ください。

さて、ここでポンペの話を持ち出したのは、基礎教育における指導者のあり方を考える際に、この逸話は非常に興味深いと思ったからです。この時代であっても、医学全体を一人の教官が担当することは、およそ現実的ではなかったそうなのです。しかしポンペはそれをやってのけました。自身の学生時代のノートをもとに、テキスト(レジメ程度か?)も執筆したのです。しかもわずか数年で。これは途方もないことです。空前絶後というべきかもしれません。

ポンペが当時持っていた医学知識はさほどのものではなかったと言われています。なのになぜ彼にはこんな離れ業ができたのでしょうか。私の理解では、それが初学者を対象とした基礎教育であり、受講生はオランダ医学を学びたくて渇するほどの意欲の持ち主であったからだと思います。もちろん、ポンペ自身の教育者としての能力と使命感が背景にあったであろうことは言うまでもありません。

ところで、小学校ではなぜ担任の先生が一人ですべての教科を教えるのでしょうか。1つは人格形成の初期に、一人の指導者に就いて学びつつ、じっくりと自己を形成していくことが期待されるからだと思います。また、教える内容が初歩レベルであるため、一人の教師がすべての教科を担当することに技術的な無理がないからだとも思えます。このレベルの教育では、各教科の専門知識の深さより「教える技術」の方が大切である点もポイントでしょう。

しかし、もう一つ忘れてはならないのは、基礎教育では個々の知識の習得も大切ですが、それらを相互に関連させて総合的に学習することがより重要である点です。総合的に学ぶことで全体観をつかみ、その先のより進んだ学習のための基盤を作る必要があるからです。このような教育では、複数の教師がそれぞれの視点で教育を行ってしまうと、全体観がつかみにくくなり、無用の混乱を招く恐れがあるからだと思います。

個々の知識学習については、一人の教師が担当するメリットは明白です。たとえば、理科で学んだ生物の知識を社会科の農業の学習に活かすことや、社会科の歴史の時間に国語で学んだ漢字の読み方と異なる歴史上の人物の名前が出てきた時、整合性を持って説明することができます。しかし、より大切なことは、教師自身が抱いている世界観や社会観を座標軸として、学んだ個々の知識を受講者(児童)が自己の記憶域にマッピングし、最終的に「世の中はこんな風になっているんだ」という理解にたどりつかせることが可能になる点だと思います。この全体観がしっかりしていれば、中学校以降のより高度な学習において、高い成果が得られるものと思います。

ビジネスの実務教育でも同じではないでしょうか。ある部門に配属された新人は、その上司から手ほどきを受けながら仕事を覚えていきます。上司は万能ではなく、自部門の実務スキルのすべてに精通しているわけはありませんが、指導者として全般的な教育を担当します。その過程で仕事に必要なスキルの全体観や職業観の形成も行われます。これは小学校の教師と似た役割だと思います。この指導を通じて一通りの仕事ができるようになった新人は、その次のステップとしてより専門性の高いセミナーなどを受講してスキルに磨きをかけていきます。これらは中学校以降の教育に相当するでしょう。

教育ビジネスにも類似のニーズはあると思います。私はいま、「コンプライアンス・インストラクター養成シリーズ」という連続もののセミナーを主催しています。このシリーズは、コンプライアンス部門に配属されて間もない方を対象に、コンプライアンス教育の基本スキルを身につけていただくための講座群から構成されています。内容は、講師の心構えやインストラクション技術から始まって、研修企画、教材作成、そしてケースメソッドなど、コンプライアンス教育に必要な一通りの知識・技能を網羅しています。
セミナーの詳細情報

それなりに幅広い領域を扱っていますが、ポンペのケースと同じで、受講者の大半がインストラクター経験の少ない方であるため、まさに基礎教育である点と、あえてこのような特殊な講座にお申し込みくださる方ですから、これらのスキル習得に渇するほどの意欲をお持ちだからだと思います。

今年はこれらに加えて、コンプライアンス教育に必要な範囲で、リスクマネジメントや危機管理、産業心理学や組織診断(コンプライアンス調査)の方法論などを取り上げていこうと構想しています。もちろん私がすべての講座の講師を担当します。私はすべての分野のエキスパートではありませんが、拙いながらもコンサルタントとして一通りの指導経験を持っています。私という一人の講師が提供する全体観を座標軸に、個々のスキルの基本を習得していただければうれしいと思います。さらに詳しい学習が必要だと感じたら、各分野のエキスパートによるより専門性の高い講座は世の中にたくさんあります。

しかも、幸いなことに、「親と上司は選べない」のが宮仕えの大原則ですが、講師は自由に選択できます。「あの講師の考え方はいやだ」と思えば、他の選択肢を求めればよいのです。

今年は、幕末にポンペのやったことを、(スケールは少々小さいですが)コンプライアンス教育の分野でやってみようと思います。

本年も「すみぶち塾」を宜しくお願い申し上げます。

すみぶち塾Sumizuku

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