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2010年11月 4日 (木)

手になじんだケース

7月から「精神医学講座」という月1回開催で4ヶ月連続の講座を受講してきました。主な内容は、「精神医学概論」「統合失調症」「アルコール依存」、そして「うつ病」と、労務管理で重要となる範囲を網羅したとても有意義な研修でした。

ここ数年、コンプライアンス研修でメンタルヘルスについて話をする機会が増えてきており、その延長上で精神疾患に陥った部下・同僚へのかかわり方について触れる際、精神医学の知識がないと責任ある講義ができないと感じていました。知人から産業カウンセラー協会主催の良い講座があると聞き、早速受講してきました。医学の話ですので素人には難しい部分もありましたが、講師を勤めてくださった精神科医のF先生がとても話し上手で、臨床経験豊富な方でしたので、何とか全4回の講座についていくことができ、非常に勉強になりました。

先週の日曜日が最終回で、メンタルヘルスの重要テーマであるうつ病のメカニズムと職場復帰に関する講義を聴きました。その中で、研修の本筋とは別に、とても感心するお話が1つありましたのでご紹介します。

抗うつ剤と呼ばれる薬には、3環系、4環系、SSRI、SNRIといったいくつかの世代があり、現在では非常に安全な薬が開発されてきているそうです。新薬が開発されると、開発した会社が多くの精神科医を招いて販促セミナーが開催されます。セミナーでは製薬会社の顧問である大学教授が演台にたち、その薬のすばらしさを熱心にPRします。

F先生も精神科医ですからこの種のセミナーにはよく顔を出されるそうなのですが、つい最近のセミナーで新薬の効用と安全性を力説されていた教授に個人的に質問したそうです。「先生、実際にこの薬、ご使用になられていかがですか?」と聞くと、先生いわく「いや実はね、私は昔ながらの3環系だけを使ってます。」という返事だったそうです。

「え?」と思うような話ですが、F先生によると「十分理解できる話だ」ということでした。というのは、医師が薬を処方する際には、この薬はどんな症状や体質の患者に有効で、効果はどのように現れ、副作用のリスクはどの程度か、といったことを総合的に考え、投薬の決定をするそうです。慣れ親しんだ薬であれば、その後の経過や副作用への対処を含め、自信をもって処方できるのですが、新薬の場合、言ってみれば「様子をみながら恐る恐る」使わざるを得ないそうです。新薬を完全に使いこなすまでには数多くの臨床経験が必要になるため、医師もある年齢以上になると新薬にチャレンジする意欲が減退してくるのだそうです。

その話を聞いた他の受講者の反応は、「なんだそれ?」という感じだったのですが、私は2つの点で「なるほど!」と思いました。1つは、お医者さんは薬を処方するときには、ずいぶん深く考えて出してくださっているのだな、ということがわかり安心したことです。いま1つは「手になじんだツールって大切だよな」ということで、セミナー講師と似てるなと感心しました。

ここ何年も、私はコンプライアンスと財務計数領域、および管理職向けマネジメント研修を中心に講師を担当していますが、いずれの領域もケーススタディ方式が多用されます。現実に存在する企業や事件のデータを活用することもありますが、学習効率を考えると、学習用に作成された架空のケースを多用することになります。この架空ケースは、重要な学習ポイントを意図的にちりばめ、比較的短時間の検討で、多様な知識を活用でき、多くの気づきが得られるよう入念に作りこまれています。そのため非常に効率的に学習効果が得られます。反面、ケースの出来ばえが悪かったり、講師がそのケースを使い慣れていなかったりすると、架空であるだけに、迫力も、納得感も、そして学習効果も乏しい「演習のための演習」に堕してしまう恐れが大なのです。

ケースを用いた研修を担当する講師は、このケースの学習所要時間はどの程度か、このケースの学習ポイントはどこで、そのポイントに気付かせるためには前提となる講義でどのような情報提供を行うべきか、討議への介入ではどのような展開に注意すべきか、そして発表と解説ではどのような指導を行うべきか、といった様々な要素に配慮し、適切なケースを選んで講義全体の組み立てを行います。ここで不慣れなケースを選んでしまうと、たとえ手練のベテラン講師であったとしても、事前指導が不十分であったり、時間の読みが外れたり、あるいは思わぬ結論に焦ったりするような失態を演じることもあり得ます。

そのため、われわれ講師は他の講師が作成したケースを使用するのを嫌う傾向があります。また同じ理由で、初めて使うケースより何度も利用経験のあるケースを選ぶ傾向があると思います。つまり「手になじんだケース」を好むということです。

このように、十分手になじんだケースの場合、講師は演習指導に自信をもって臨むことができるのです。医師の処方箋とは性質が異なる話ではありますが、どこか似てると思いませんか?

われわれ講師も、教材選びには責任を持って臨んでいるのです。

すみぶち塾Sumizuku_2

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